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東京高等裁判所 昭和35年(ラ)954号 決定 1961年10月18日

抗告人 高野宗正

相手方 草場弘

主文

原決定を取消す。

抗告費用は相手方らの負担とする。

理由

抗告人は、原決定を取消すとの裁判を求め、その抗告理由は別紙記載のとおりである。

本件記録と東京高等裁判所昭和三十三年(ネ)第一、〇七九号事件及び東京地方裁判所昭和三十五年(ワ)第三三号事件の各記録とによれば次の事実が認められる。

相手方らは横浜地方裁判所小田原支部昭和三十一年(ワ)第六〇号建物明渡等請求反訴事件において、昭和三十三年四月二十二日敗訴の判決を受け建物等の明渡を命ぜられ、かつ、これについて仮執行の宣言があつたので、同年五月二十四日右判決に対し控訴を申立てた上(東京高等裁判所昭和三十三年(ネ)第一、〇七九号)、仮執行の宣言に基く強制執行の停止を申立て(東京高等裁判所昭和三十三年(ウ)第四〇九号)、同年五月二十七日為された強制執行停止決定の趣旨に従い東京法務局に保証として金二百万円を供託し、執行吏に対して右強制執行停止決定の正本を提出して執行の停止を求めたけれども、同年十二月二十五日これを取下げ、横浜地方裁判所小田原支部に対し右担保取消の申立を為したところ、同支部は同日抗告人に対し、催告書送達の日から十四日内に右供託金について権利行使をすることができる旨及び右期間内に権利行使をしなければ担保取消に同意したものとみなす旨の催告を為し、右催告書は同月二十九日抗告人に送達せられた。そこで抗告人は相手方らを被告として昭和三十五年一月六日東京地方裁判所に損害賠償請求の訴を提起した(同裁判所昭和三十五年(ワ)第三三号)。右訴訟において、昭和三十五年七月十六日の第五回口頭弁論期日前同月五日原告(本件抗告人)と被告ら(本件相手方ら)との双方から期日変更の申請が為されていたけれども、同裁判所は右期日を変更することなく弁論期日を開いたところ、当事者双方とも出頭せず、その後三月以内に期日指定の申立が為されなかつたので、同裁判所は同事件は同年十月十七日の経過により取下げとみなされたものとして処理した。そこで、横浜地方裁判所小田原支部は抗告人が担保取消に同意したものとみなして同年十一月二十五日担保取消決定を為したので、被告人はこれに対して即時抗告の申立(本件抗告)を為すとともに、東京地方裁判所に対しては、右損害賠償請求事件は休止期間が満了したものではなく、いまなお係属中であると主張して、同年十一月二十九日期日指定の申立をしたところ、同裁判所は同年十二月二十四日いつたん右申立却下の決定を為したけれども、抗告人がこれに対し抗告を為すに及び、再度の考案によつて昭和三十六年一月三十日前記却下決定を取消し、右期日指定の申立の当否を審理するため口頭弁論期日を指定し、これを審理した上同年八月九日同事件は昭和三十五年十月十七日の経過により取下とみなされ終了した旨の判決を言渡し、これに対し抗告人は同年八月二十五日控訴の申立を為し、現に東京高等裁判所に係属中である。

なお、前記東京高等裁判所昭和三十三年(ネ)第一、〇七九号事件については、昭和三十六年七月十八日控訴棄却の判決が言渡されたが、これに対しては上告の申立がなかつたので、右判決は確定し、同事件は完結した。

以上認定のとおりの事実関係の下において、原裁判所の為した担保取消決定の当否について、次に判断する。

民事訴訟法第五百十三条第三項によつて準用せられる同法第百十五条第三項の規定に則り、裁判所が担保権利者に対し一定の期間内にその権利を行使すべき旨を催告するのは訴訟の完結後であることは、同条の規定によつて明らかである。ここに所謂訴訟とは、本件においては前記東京高等裁判所昭和三十三年(ネ)第一、〇七九号事件であつて、この事件の仮執行宣言に基く強制執行停止事件(東京高等裁判所昭和三十三年(ウ)第四〇九号)をいうものではない。そして右の(ネ)第一、〇七九号事件は、昭和三十六年七月十八日に言渡された判決が上告の申立なく確定したことによつて完結したのであるから、昭和三十四年十二月二十五日横浜地方裁判所小田原支部の為した同記催告は、本案訴訟の完結前に為されたものであつて、民事訴訟法第百十五条第三項に規定する催告としての効力を有するものとはいえない。従つて、抗告人が右催告に応じて権利の行使をしなくても、担保取消について同意を為したるものとみなすことはできないし、また本件におけるように、いつたん右催告に応じ権利の行使として提起した損害賠償請求事件が、取下げられ、あるいは取下げられたとみなされても、担保取消に同意したものとみなすことができないのは当然である。なお、前記催告は、その送達(昭和三十四年十二月二十九日)の後十四日内に権利行使をしなければ担保取消に同意したものとみなす旨の催告であるから、本案事件の完結によつてあらたに催告としての効力を有するに至るとも認めえないのは、いうをまたない。従つて、抗告人の提起した前記損害賠償請求事件が取下げとみなされて(当裁判所は東京地方裁判所昭和三十五年(ワ)第三三号損害賠償請求事件について昭和三十六年八月九日言渡された判決と同一の理出によつて右訴訟は取下とみなされるものと判断する)も、あるいはまた、抗告人の主張するように、いまなお係属中であるとしても、いずれであつても、抗告人が本件担保の取消に同意したものとみなされるいわれはないのであつて、前記損害賠償請求事件が取下げられたとみなされることを理由として、抗告人が本件担保の取消に同意したものとみなして為した担保取消決定(原決定)は失当というのほかない。

なお、右のほかに、民事訴訟法第百十五条第一項または第二項所定の事由に該当する事実の存することは認められない。

よつて、本件抗告は、抗告理由と理由を異にするけれども、結局理由があるから、原決定を取消すべく、抗告費用の負担について民事訴訟法第九十六条第八十九条第九十三条に則り主文のとおり決定する。

(裁判官 薄根正男 元岡道雄 小池二八)

抗告の理由

一、本件の保証金弐百万円は東京高等裁判所昭和三十三年(ウ)第四〇九号強制執行停止事件につき相手方草場弘、同草場元(原決定申請人)が東京法務局へ供託したものであり之に対し抗告人(原決定被申請人)は催告期間内に権利行使として昭和三十五年 月日相手方に対する損害賠償請求の訴訟を東京地方裁判所に提起し(東京地裁昭和三十五年(ワ)第三三号)その第五回口頭弁論期日は昭和三十五年七月十六日と指定されていたところ当日は原被告双方代理人に差し支えが生じたため期日前の七月五日双方代理人より正式に口頭弁論期日変更申請書が提出され同日受理された。

二、七月十六日の第五回弁論期日には双方代理人は不出頭であつたところ裁判官は右期日変更申請書を見落したため休止処分に付した。

三、右の損害賠償請求事件は東京高等裁判所昭和三十三年(ネ)第一〇七九号控訴事件の結果待ちの形であつたため双方代理人は裕つくりした期間をおいて期日の指定を受けるか或は追つて期日の指定を受けるかに諒解を遂げていたのである。

四、右の事情であるので十一月二十九日原告代理人(抗告代理人)より改めて期日の指定がなされ同裁判所も訴訟は尚繋属するものとの見解を採られ期日指定申請を受理し近く弁論期日を指定することになつている。

五、従つて担保取消につき抗告人の同意があつたものと看做すのは誤りであるので原決定を取り消され度く即時抗告に及んだ次第である。

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